海外でユングの集合的無意識が否定されやすい理由

それは宗教が大きく関わっていると思われる。ユングが登場した時代はニーチェなどの実存主義が全盛になっていた頃で、キリスト教やヨーロッパ中心主義を否定する思想が現れ始めていた頃である。もちろんそのような思想が一般の人の間に広がっていたわけではなく、ユングの師であったフロイトは当時タブーであった性的問題を扱っていたため保守的な人々から猛烈に非難され、孤立していた。ユングが唱えた集合的無意識は神話を形作る元になるもので、人間の無意識の中の奥深くに、個人を超えて人間全体に共通して存在するというものだが、それを拡大解釈すれば、宗教における神もそこから生まれたという仮定も十分に成り立つ。そのことは宗教にとっては大問題になりうる。日本ではそういう問題に関しては中立なためユングのこの考えは違和感無く受け入れられているが、宗教が生活に密着している海外の国々の常識で考えれば、到底受け入れられないものである。アメリカではフロイトの唱える性的欲求とキリスト教における原罪の思想が非常によくマッチするため、ユングよりもずっとメジャーであり、ユングはオカルト的で非科学的と思われていることが多い。